「あのシステムはAさんしか触れない」という状態が長く続いていることに気づきながらも、問題が起きていないうちはなかなか動けないものです。
担当者が退職してから慌てて対応する、業者と連絡が取れなくなってから気づく。こうした事態は、担当者がまだ在籍しているうちに手を打つことで、大部分を防ぐことができます。
この記事では、「担当者がまだいる状態」で属人化を解消するための、具体的な進め方を整理します。
属人化とはどういう状態か
システムの属人化とは、特定の一人(または少数)しか、そのシステムを安全に扱えない状態を指します。
具体的にはこういった状況です。
- その人が休むと、問い合わせへの対応や緊急時の対処ができない
- 「なぜこうなっているのか」を説明できる人が一人しかいない
- パスワードや設定情報がその人の手元にしかない
- 改修・設定変更を依頼できる先がその人(または一社)だけ
属人化自体は「悪い人がいるから起きる」問題ではありません。長年一人が担当し続けることで自然に積み上がる状態です。属人化はレガシーシステムが抱える問題のひとつであり、システム全体の保守性をどう回復するかという大きな文脈で捉えることができます。全体像についてはレガシーシステム再生とは?リプレースの前に現行システムを活かす選択肢で整理しています。
なぜ問題が起きてから動いてしまうのか
属人化は、担当者が在籍している間は問題として表面化しません。システムは動き続けるし、何か起きたときはその人が対応してくれる。だから優先順位が上がらない。
問題が表面化するのは、担当者が退職した後、あるいは外部ベンダーとの連絡が突然取れなくなったときです。そのタイミングはいつ来るかわからず、しかも来てしまってからでは対応の選択肢が大きく限られます。
担当者がいる今だからこそできること、そして在籍中でなければできないことがあります。
なお、すでに退職してしまった場合の対処についてはシステム担当者の退職が決まったときに確認すべき引き継ぎ項目を、業者との連絡が取れなくなった場合については開発した業者と連絡が取れなくなったら最初に確認することをご参照ください。
在籍中にできること
担当者が持っている情報を聞き出す
属人化の解消で最初にすることは、担当者の頭の中にある情報を外部化することです。
優先して確認したい情報
- システムの概要(何をしているシステムか、どんな処理の流れか)
- 定期的に行っている作業の一覧(バックアップ・更新・確認など)
- 過去に起きたトラブルとその対処の記録
- 「ここだけは注意が必要」という箇所
- 連絡先一覧(ホスティング会社・ドメイン登録先・外部API提供元など)
この情報収集は、担当者に「全部ドキュメント化してください」とお願いするのではなく、定期的な短いヒアリングや作業の同席から始める方が現実的です。「全部書いてください」は負担が大きく、進まないことが多いためです。
アクセス権限を組織管理アカウントに移す
属人化の最も大きなリスクのひとつが、アクセス権限の属人化です。
- サーバーやクラウドのアカウントが個人メールアドレスに紐づいている
- ドメインの管理者が退職予定の担当者になっている
- 社内システムの管理者権限を一人だけが持っている
これらは、担当者が在籍しているうちに組織のアカウントに切り替えることができます。退職後は手続きが複雑になるか、最悪の場合は引き継ぎができなくなります。
確認すべきアカウントの例:
- サーバー・クラウドの管理コンソール(AWS・Azure・さくらインターネット等)
- ドメイン登録・DNS管理
- SSL証明書の管理
- リポジトリ(GitHub等)の管理権限
- 監視サービス・ログサービスのアカウント
作業履歴が残る仕組みを作る
担当者が今後の作業を記録する習慣・仕組みを作ることで、引き継ぎのための情報が自然と蓄積されます。
現実的な方法
- 定期作業のチェックリストを作り、完了日を記録する
- 設定変更や改修を行ったとき、何をなぜ変えたかをメモに残す(コメントやチケットで)
- トラブル発生時に、状況・原因・対処を簡単にメモする
「完璧なドキュメント」を目指す必要はありません。「次に引き継いだ人が最初の1週間で迷わないための情報」を残すことを目標にするのが現実的です。
「完全なドキュメント化」を目指さなくていい
属人化の解消というと「すべての仕様をドキュメントにする」イメージを持たれることがありますが、それは現実的ではありません。
10年運用されてきたシステムの全仕様を文書化しようとすると、作業量が膨大になり、途中で止まってしまうことがほとんどです。また、一度書いたドキュメントは更新されないと、すぐに実態と乖離します。
目指すべきは「誰もが触れなくなる状態を防ぐこと」です。そのために最低限必要な情報(アクセス権限、定期作業、緊急時の連絡先、急所になる箇所)を優先して押さえることが現実的なアプローチです。
外部に依頼するタイミング
以下の状況では、外部の支援を検討することをお勧めします。
- 担当者へのヒアリングを試みているが、情報がうまく整理されない
- 担当者は協力的だが、技術的な内容を整理できる社内の人間がいない
- 退職まで時間が限られており、社内だけでは対応が難しい
- 現行システムの仕様がブラックボックス化しており、調査から始める必要がある
担当者が在籍しているうちに外部の技術者が入ることで、担当者から直接技術的な情報を受け取り、整理することができます。退職後にゼロから調査するより、はるかに効率的に情報を引き継ぐことができます。
まとめ
属人化の解消は、問題が起きてから動くのでは遅い場合があります。担当者が在籍しているうちにできることは、情報の聞き出し・アクセス権限の移管・作業記録の仕組み化です。「完全なドキュメント化」を目指す必要はなく、次に誰かが触れる状態にすることを目標にすることが現実的です。
「担当者が一人しかいない」「退職の話が出てきた」という段階でも、まだ対応できることは多くあります。属人化の解消は、誰が担当しても保守を続けられる状態への実践的な一歩です。その先の保守の進め方についてはレガシーシステム保守とは?古いシステムを安全に使い続けるための考え方で整理しています。現行システムの調査・情報整理・引き継ぎ支援についてはお気軽にご相談ください。レガシーシステム保守のページ、またはお気軽にお問い合わせください。