生成 AI は魔法ではありません。「すべてお任せ」では期待どおりに動かないことも多く、使い方を誤ると、誤った結果をそのまま採用してしまう危険があります。
一方で、道具として正しく使えば、実務で効果を感じやすい場面は確実にあります。当事務所では、サイト制作・ログ解析ツール開発・日常のコンテンツ運用まで、生成 AI を実際の仕事の中に組み込んで使い続けています。
この記事では、サイト制作・ログ解析・コンテンツ運用で実際にどう使っているかを、次の 3 つの事例に分けてまとめます。
- Claude Code / Codex と Hugo によるサイト制作・運用
- Python + AI による Web サーバアクセスログ解析
- ブログ・サイト運用での AI 活用
共通方針:AI に丸投げしない
どの場面でも共通しているのは、「AI に丸投げしない」 という方針です。
生成 AI は文章を生成したり、コードを書いたり、パターンを説明したりするのが得意です。しかし、数値を正確に集計したり、ファイルを確実に処理したり、「これが正しい判断か」を決めたりする作業は、人間が判断するか、プログラムで検証する必要があります。
実務で機能させるには、次の役割分担が重要です。
- 機械的に処理できること → プログラムに任せる
- 文章化・要約・説明・コード生成 → AI に任せる
- 目的・方針・最終判断 → 人間が決める
この分担を崩すと、「AI が集計を間違える」「AI が自信満々に誤情報を返す」という場面に遭遇します。分担がうまくいくと、少人数でも実用的なツールやコンテンツを作りやすくなります。
事例1:Claude Code / Codex と Hugo によるサイト制作・運用
AI コーディングエージェントとは
Claude Code や Codex は、リポジトリのファイル構造を把握しながら、実装方針の相談・コードの追加・エラーの確認・修正を進められる AI コーディングエージェントです。「コードを書いてもらう」だけでなく、実際のリポジトリを見ながら設計や修正方針を相談できる点が特徴です。
randynetwork.com のリニューアル
このサイト(randynetwork.com)は、Hugo と Cloudflare Workers で構築しています。テーマは使わず、layouts/ と assets/ をゼロから組んだ構成です。
Claude Code / Codex を使ったのは主に次の場面です。
- Hugo テンプレートの設計と実装
- Cloudflare Workers によるお問い合わせフォーム処理(メール送信・Slack 通知連携)
- CSS の構造整理(フレームワーク不使用、Hugo Pipes で結合)
- JSON-LD 構造化データの実装
- cron 記事の執筆など、ブログコンテンツの壁打ち
「こういう構成にしたい」という意図をコードに落とし込む速度が、AI コーディングエージェントを使うことで確実に上がりました。
ななこぴ⚡️オフィシャルサイト
「ななこぴ⚡️」は、私が参加しているアマチュアバンドの公式サイトです。こちらも Hugo で構築しましたが、randynetwork.com とは別の技術的な課題がありました。
- Hugo の multilingual mode による日本語・英語の多言語対応
outputFormatsを使った LINE 専用出力フォーマット(同じコンテンツから通常版と LINE 版を生成)- LLM を使った日本語→英語の翻訳ワークフロー(変更があったファイルだけを自動翻訳する仕組み)
- Cloudflare Turnstile を使った Bot 対策付きお問い合わせフォームとライブコメント機能
小さなバンドサイトではありますが、構造化データ・多言語対応・サーバレスフォームまで含む実践的なプロジェクトになりました。詳細は「Claude Code を使ってアマチュアバンドの公式サイトを作った話」にまとめています。
静的サイトジェネレータと AI コーディングエージェントの相性
2 つのサイトを作ってみて実感したのは、Hugo のような静的サイトジェネレータが Claude Code や Codex のような AI コーディングエージェントと特に相性が良いという点です。
理由は構造の明確さにあります。
- すべてがファイル — テンプレート・コンテンツ・設定が Git 管理されており、AI がリポジトリ全体を把握しやすい
- ビルドで即座に検証できる —
hugo serverを実行すれば数秒でエラーが出る。AI が書いたコードをすぐ確認できる - 副作用が少ない — データベースがなく、テンプレートを変更してもサーバ上の状態を壊すリスクが低い
WordPress のような CMS と比較すると、静的サイトはプラグインの脆弱性やデータベースへの不正アクセスといった攻撃面を小さくしやすい構成です。お問い合わせフォームや外部サービス連携など、別途注意すべき部分はありますが、適切に構築すればセキュリティ上の管理コストを下げられます。古い CMS や更新しづらいサイトから静的サイトへ移行するという選択肢が、状況によっては有効なケースもあります。
事例2:Python + AI による Web サーバアクセスログ解析
Web サーバのアクセスログから不審なアクセスを調べ、セキュリティレポートと WAF ルール案を生成するツールを、Python と AI の組み合わせで作りました。
ここでもポイントは、ログを AI に直接渡さないことです。アクセスログはファイルサイズが大きく、そのまま渡してもトークン数が膨大になり、AI が重要な部分に集中できません。
代わりに Python で事前処理を行います。
- 調査時間帯のログだけを抽出する
- IP ごとのアクセス数・ステータスコード・URL パスを集計する
- ルールベースで不審 IP を判定する(高頻度アクセス・404 多発・スキャン系パスなど)
- 集計結果だけを AI に渡す
AI はこの集計結果をもとに、アクセスログ解析レポートと WAF・IP 制限の対応策レポートを生成します。Apache・Nginx・AWS ALB など複数のログフォーマットに対応し、Anthropic API・OpenAI API・Ollama(ローカル実行)を切り替えられます。クラウド AI とローカル AI の使い分けの考え方については「ローカル AI とクラウド AI の使い分け:何を基準に選ぶか、環境を作る現実」にまとめています。
ここで AI に任せているのは、あくまで整理とレポート化です。実際に WAF へ適用するかどうか、どの範囲を遮断するかは、ログの背景や業務影響を見て人間が判断します。
詳細は「AI にログを丸投げしない Web サーバアクセスログ解析・WAF 対応策レポート生成ツールを作った」で解説しています。
事例3:ブログ・サイト運用での AI 活用
記事の執筆や運用にも AI を組み込んでいます。ただし「AI に記事を書かせる」という使い方ではありません。
実際にやっていることは次のとおりです。
- 構成の壁打ち — 書こうとしているテーマについて、何を書くべきか・何を省くかを AI と相談する
- 文章の確認 — 書いた原稿を読んでもらい、わかりにくい部分や矛盾を指摘してもらう
- 技術調査の補助 — 新しいツール・設定・コマンドについて、概要を素早く確認する
- コード生成の補助 — Hugo テンプレートや設定ファイルの変更を Claude Code / Codex と一緒に進める
記事の内容・事実確認・最終的な判断は自分で行います。AI は「整理と加速の道具」として使っています。
記事の作成とサイト運用を続けやすくする進め方は、AI を活用してブログ記事の作成とサイト運用を続けやすくするで整理しています。
AI を使って作成した原稿を公開する前に、実際に確認している項目は、AI で作ったブログ記事をそのまま公開しないための確認手順にまとめています。
コード修正への活用例として、古い PHP フレームワークを新しい実行環境へ移行した経験は、PHP フレームワークのバージョンアップ戦略で紹介しています。
レガシーシステムの調査・改修でコーディングエージェントを使った経験をもとに、できること・できないことを整理した記事は、AI で古いソースコードは解析できるのか?にまとめています。
試してみたが、現時点では難しかったこと:ライブ動画からの自動レポート作成
AI 活用では、「できたこと」だけでなく、「試してみたが、まだ難しかったこと」も重要です。
私が参加しているバンド「ななこぴ⚡️」では、ライブ後に写真と文章でライブレポートを公開しています。そこで、ライブ動画を AI に解析させ、レポートの下書きを自動生成できないかを試しました。
結果として、現時点ではまだ難しいと感じました。AI は動画の一部を見て、客席の様子、照明の色、ステージ上の配置といった視覚的な情報を拾うことはできます。しかし、「ギターの音が良かった」「バンド全体のサウンドバランスが良かった」「ボーカルの振り付けが印象的だった」「会場の空気が盛り上がった」といった、音楽的・文脈的な評価を安定して行うのは簡単ではありません。
一方で、動画から場面ごとのメモを作る、写真選定の補助をする、レポート本文の構成案を出す、といった使い方には可能性があります。つまり、ライブレポート全体を AI に丸投げするのではなく、素材整理や下書きの補助として使うのが現実的です。
動画理解の技術自体は進んでいます。たとえば、動画の視覚情報と音声をあわせて扱い、内容の説明やタイムスタンプ付きの整理を行える AI も登場しています。ただし、ライブ演奏の良し悪しや演奏者としての手応え、観客の反応をどう受け止めるかは、単なる映像要約だけでは判断しきれません。
今後、動画・音声・セットリスト・過去のライブレポートを組み合わせて扱えるようになれば、ライブレポート作成の一部はさらに自動化できるかもしれません。ただし現時点では、AI は素材整理や下書きの補助として使い、ライブの意味づけや最終的な文章化は人間が担うのが現実的だと考えています。
共通パターン:機械的処理はプログラム、文章化は AI、判断は人間
冒頭で書いた役割分担は、ここまでの事例すべてに共通しています。改めて整理すると、次のようになります。
| 役割 | 担当 |
|---|---|
| 数値集計・ファイル操作・フォーマット変換 | プログラム(Python / Hugo) |
| 文章化・要約・説明・コード生成 | AI ツール・LLM |
| 目的・方針・最終判断 | 人間 |
AI に任せるのは「文章にする」「整理する」「候補を出す」という部分です。正確性が求められる処理や、結果の責任を持つ判断は、人間またはプログラムが担います。
この分担を意識することで、AI 活用の再現性が上がります。「うまくいかない」という場面の多くは、AI が苦手な役割を任せてしまっているケースです。
今後扱うテーマ
AI 活用の範囲はまだ広げている途中です。現在取り組んでいるテーマとして、次のようなものがあります。
- レガシーシステム保守での AI 活用 — 仕様書がない・担当者がいないシステムの保守に AI を使う場面と、人間が担うべき役割
事例が増えるたびにこのページを更新していきます。
「何から始めればよいかわからない」「自社の業務に AI を組み込めるか確認したい」という段階でもご相談を受け付けています。AI 活用支援からお気軽にどうぞ。